先日ご紹介した、Den.Permer 'Kobe' パーマー‘コーベ’ですが、投稿の中で説明したように、紅紫系4倍体デンドロビュームの祖先であることから、殆どの紅紫系品種をたどっていけば、Den.Permer 或いはDen.Permos (パーマーの改良種)に行き着きます。
以前紹介したRHSのページで試してみるといいですね。
RHSの登録品種を調べる その1
品種改良を経て花が大きくなったり、丸弁に近くなったり、花つきが良くなったり、きれいな花色になるというのは皆様もはなんとなくおわかリになると思いますが、花型、花つき、花色だけが交配目標ではありません。
デンドロビュームにとっては、過去において洋ラン需要の多くが趣味者対象であった時代には、審査での受賞の対象となるような丸弁で大輪花の作出だけが育種改良の目標でありましたが、創業者の山本二郎は花卉産業の対象として将来の需要を見据えて、鑑賞価値が高いこと、市場への輸送に耐えられる強健な品種を想定し、更に草姿の改良、生産農家が栽培のしやすさといった点にも着目し、育種改良に力を入れて来ました。
今回は、一般消費者向けの鉢物需要を見越した品種改良の成果がとっても分かりやすい開花株を見つけましたので、パーマー‘コーベ’と比べてみました。
Den. Angel Love 'Akiko' |
Den. Angel Love 'Akiko' エンジェルラブ‘アキコ’です。
交配親はDen. Wave KingとDen.Silky Whiteです。
それぞれの交配親を6代か7代ほど遡ると、どちらもDen.Permerにたどり着きます。
エンジェルラブ(左)とパーマー(右) |
この二つを比べてみます。
いまいち正面の分かりにくいパーマー‘コーベ’と前後のはっきりしたエンジェルラブ ‘アキコ’。
節間が長く、花梗も長いため花がやや下へ垂れ気味のパーマー‘コーベ’と花が一方向へ向き、しっかりと上向きにせり出し、花全体が鑑賞しやすいエンジェルラブ ‘アキコ’。
左右に振り分けて咲いていますが、株の正面です |
節数が約13節で上から5節に着花。全体の約3分の一にしか花が咲かないパーマー‘コーベ’は鉢物よりは切花に向いたデンドロビュームです。
エンジェルラブ‘アキコ’の方は約10節で上から6節に着花。全体の節数や着花している節の数はほとんど変わらないのですが、草丈や着花している位置を比べてください。
株元から着花させることでコンパクトな鉢物の仕立てが可能です。
また節間が狭いため、花が密集して開花しており、ボリューム感があります。
とても商品性が高く、テーブルを彩る鉢物としても最適です。
家庭で楽しむためには、あまり大きく伸びてしまう品種よりも、この程度の草丈で十分でしょう。
花数も申し分有りません。
完全な一方向咲きに改良されています |
デンドロビュームは展開する葉の数だけ節が出来、ひとつの節に一つしか花芽がつきません。
株元から花が良く咲くということは、節数、草丈が少なくても花数が多いため、僅かな生育期間で栽培年数が少なくても商品になるということです。
または、節間を縮め、花つきにボリューム感が増したことは、たくさんの株を寄植えしなくても、少ない株で鉢物を仕立てることが出来るということです。
このことは営利的に見れば、デンドロ農家がコストを掛けず大量生産、早期の出荷が可能になったということです。
デンドロビュームを生産して市場へ送り出す生産者側の立場にたった育種改良でもあるわけです。
※今回、エンジェルラブ‘アキコ’を取り上げたのは、育種の方向性のひとつとしての一例の紹介であり、花型、花色、その他の要素すべてに当てはまるわけではありません。